2024.5.17

INTERVIEW Vol.32(前編)

砂浜を舞台に躍動を続ける姉妹ペア

ビーチバレー歴はわずか5年。
しかしながら2021年、デビュー戦の国内最高峰ツアーで3位入賞、
続く第5戦目では準優勝を飾ります。
瞬く間に“れんのんペア”の愛称で
親しまれるようになった
松本 恋(れん・写真右)さん、穏(のん・写真左)さんは
世界的にも珍しい姉妹ペア。
「二人で世界と戦いたい。夢は姉妹でメダルです!」
と妹・穏さんが陽だまりのような笑顔で語ってくれました。

姉妹ゆえの強さと葛藤

幼い頃から互いの性格を熟知し、
目覚めた瞬間から寝るまでともに過ごしてきた時間は
阿吽(あうん)の呼吸だけでなく、
特有の戦術を生み出しました。

その好例は、れんのんペアの代名詞と言える“謎のサインプレー”。
暗号のようなフレーズで緻密な意思疎通ができるのは、
子どもの頃から同じアニメを好んできたから。
『NARUTO』や『スラムダンク』にちなんだサインは、
6分割したコート上でのアクションを瞬時に、的確に伝達します。
「私たちのサインを見破れる選手はいないでしょうね(笑)」(穏さん)。

一方、プライベートと競技時間の境界線が曖昧なゆえに
コート内で派手な姉妹喧嘩を披露することも。

「試合や練習中に、家でのふるまいを引き合いに出してしまったり……。
甘えのようなものがあったのだと思います。
でも、今や喧嘩はなくなりました。
互いに“自分の夢を助けてくれる相棒”だと
本心から思えるようになったからです」(恋さん)。

小学生でバレーボールの才能を開花させ
姉妹ともにバレーボールの強豪校に進学。
団体競技に身を置きながらも、
ペアで戦うビーチバレーの存在を知り、
『団体ではなく、二人だけで戦ってみたい』
と思い描くようになりました。

妹・穏さんが高校を卒業したタイミングでペアを結成。
以後、破竹の勢いで勝ち進み
“ビーチバレー界の新星”と呼ばれるほどになりました。

原点回帰で手繰り寄せたブレイクスルー

珍しい姉妹ペア。かつ、いきなり上位に食い込む実力。
しかし、そこにはルーキーへの洗礼が待っていました。

「注目が集まるとともに、マークされるし研究される。
簡単には勝てなくなりました。
そして、世間からの雑音も増えました。
“こうすれば勝てるはず”“こうしたほうがいい……”。
そうした言葉に振り回されるようになり、
何が正解かわからなくなったんです」(穏さん)。

葛藤のなか終えた2023年のツアーを経て、
れんのんペアは、ふっきれた目をして語ります。
「もともと私たちって、“邪道”だったんですよ」

海のないコートで、ユニークな練習

れんのんペアの練習場は愛知県北部の山中。
ビーチバレーのイメージとかけ離れる、
海とは無縁の山里にある手作りコート。

コートの傍にはこれまた場にそぐわぬ
サンドバックやバスケットゴール。
他のスポーツのトレーニングを取り入れるというアイデアは
二人のコーチを務める父・健一さんのもの。

「家族みんなで“良い”と思ったことを取り入れながらやってきました。
よく驚かれるのですが、父はビーチバレーに関しては素人でしたし、
私たちも、有名な大会に出る条件すら知りませんでした」(穏さん)。

「実は、このコートも父の手作りなんです。
私たちが毎日練習できるようにと、
試行錯誤しながら作り上げてくれました。
ここが、私たちのホームビーチであり、原点です」(恋さん)。

「『強くなりたい』、その一心でたくさんの言葉に耳を傾けました。
声を掛けてくれた人も“よかれと思って”だったと思います。
でも、私たちは自分たちがここまでこれたのは、
王道を真似たのでなく、邪道を突き詰めてきたからなんです。
破天荒とも言える挑戦を姉、そして支えてくれる父と母を信じて
やり抜いてみようと思うんです。
繰り返しになりますが、恋は最高のお姉ちゃんで、
“姉妹でメダル”という夢を助けてくれる最高の相棒です」(穏さん)。

妹の言葉に、姉はこう続けてくれました。

「夢はあくまで『姉妹で勝負すること』。
私の相棒は穏以外にいません」(恋さん)。

――もし、喧嘩になったら?
「どちらかが、美味しいスイーツやケーキを買ってきて
それで雪解けですね」(穏さん)。

(後編に続く)


松本 恋(写真右)・穏(写真左)

ともに愛知県犬山市生まれ。
姉・恋は1998年生まれ、妹・穏は翌年に生まれる。
2018年にバレーボールからビーチバレーへ“姉妹ペア”として転身。
同年のデビュー戦・国民体育大会愛知県予選で優勝を飾る。
全国各地の大会で好成績を残し、ジャパンツアーへ参戦、快進撃を続ける。
2026年に開催される地元、愛知・名古屋開催のアジア競技大会、
そして2028年のロサンゼルスオリンピックでの活躍が期待される。

  • Photo:Kengo Shimizu
  • Text:Hiroshi Morohashi
  • Edit:Toshiki Ebe(ebeWork)

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